「数学原論 第2章 環と加群」 読書メモ 前編

 まだ、読み途中ですが。

第2章の目標

この章には最後に目標があって、「素数 $p$ が $a^2+b^2$ の形で表されることと、$p=2$ または $p$ が $4$ で割って$1$余ることが同値である」(ピタゴラス素数の定理ということにする)という定理を示すことです。この目標に向かってすすんでいきますが、直接の証明に当たる部分は短くて、2.8節の後半で完結しています。ページにすると、1ページくらいです。それ以前は、すべて環と加群の一般論になっているといえます。この定理を示すだけであれば、もっと2章全体のページ数は減らせるかもしれませんが、環論の一般論を知っているだけで、だいぶ見通しがよくなり、この定理以外にも応用がきくようになっています。

本の冒頭では、2章の内容は、リーマン面楕円曲線の章で使われるという説明になっていますが、4章のホモロジーではいらないのだろうかというのが気になります。

「環と加群」の特殊な例としての線形代数

「環と加群」は、特殊な場合については多くの大学生が勉強していて、それは線形代数です。線形代数は体上の加群の理論ということができます。

そもそも環とは何かというと、足し算・掛け算が定まっている集合のことで、足し算・掛け算をつなぐルールとして分配法則を課しています(あと、ここでは1があって可換)。体はその上で、割り算もできるようにしています。線形代数の授業では、体として実数と複素数を基本的に扱いますが、一般の体でも多くの部分がそのまま成り立ちます。と思ったのですが、直交行列とかユニタリ行列とか対称行列など、単に線形空間(体上の加群)を考えているのではなく、内積が備わっている内積空間でないとできない話も多くあります。他に、標数が0でないときは、なにかトラップがあった気がします(が忘れました)。

線形代数が、一般の環上の加群の理論と比べてはるかに簡単になっている理由は、1つには、同型の差を除いて線形空間がすべて分かっているからであって、次元で決定できるわけです。線形空間があると思ったら、それが微分方程式の解の空間であれなんであれ、次元を調べて、基底をみつければ、その線形結合ですべての元を列挙できますし、その空間を分かったいってよいでしょう。線形空間の間の線形写像も、行列で表せるので、分かりやすいです。一般の環の加群では、基底がとれることもありますが、一般にはとれず、環 $A$ 上の加群として、有限生成なものに限っても、どういうものがあるのか全体像がつかめないということが多いはずです。

重要な環のクラス

とはいえ、一般の環で理論を作るのは難しいので、ある程度、環に条件をつけて理論を構築することになります。体も環のクラスの1つですが、体に絞ると線形代数から進歩がなくなってしまいます。ほどよいクラスを定めるときに、イデアルに着目します。イデアルは $A$ に含まれる $A$加群であったことを考えると、自然な方法に思えます(一般の加群の形もある程度きまりそう)。

体の場合は、環 $A$ であり、イデアルが $A$ と $0$ のちょうど $2$ つであるものと定義できます。この章では、単項イデアル整域がでてきますが、これはすべてのイデアルが $1$ つの元で生成される整域という条件です。整域は $ab = 0$ から $a = 0$ or $b = 0$ がしたがうという条件で、体のように「乗法の逆元が $0$ 以外のすべての元についてある」という意味での割り算はできないが、弱い意味での割り算はできるという条件といえるかと思います。それから、ユークリッド整域もでてきますが、これは余りのある割り算ができるという感じです。ユークリッド整域であれば単項イデアル整域なのですが、ユークリッド整域であることは、あまりの大きさの尺度になるユークリッド関数を具体的に作ることで確認できるので、具体的な環に対して単項イデアル整域であることを確認するための方法として有効です。

この本には出てこないみたいですが、より広いクラスとしてネーター環があります。

単項イデアル整域、ユークリッド整域と選択公理

少し気になったのは、この章では、単項イデアル整域で成り立つことをあえてユークリッド整域で示していることがあるということです。その理由としては、選択公理の使用を避けているとのことです。ただ、単因子論のところで、選択公理を使うとしても、一般の単項イデアル整域の場合の証明がわからなかったので、別の本で調べるか、頑張って埋めるかします(勉強したことあるはずだけど)。

 

書いてたら意外と長くなったのでここまで。