「数学原論 第1章 圏と関手」 読書メモ

斎藤毅先生の「数学原論」を数学の学び直しとして読んでいます。第1章を読んだので、復習のために書いてあった内容を思い出しつつ、メモを書きます。

圏論と本全体のこと

第1章のタイトルは圏と関手ですが、この本全体を通して、圏論的視点で現代数学を見るというのが目的となっているので、そのために圏論の言葉・基本的な概念と使用する定理をまとめているのがこの章という位置づけになると思います。

 

本の冒頭で、微分積分線形代数集合論をやっていればこの本は読めます、と書いてありますが、正直難しいかなと思います。第1章については、具体的な圏と関手の例を知っているから読めている気がします。圏の入門としてはもっと例が豊富で読みやすいものもあります。一方で、例えば第3章でガロア理論を扱っていますが、ガロア理論を勉強するときにも、圏論を知っていることが必須ではないので、この本で勉強しようとすると、第1章で詰まってしまうかもしれませんし、そうするとガロア理論だけに特化した、もっと説明が丁寧な本を選んだほうが、「ガロア理論を勉強をしたい!」と思っている人のうちの大半のニーズにはあっているでしょう。

 

否定的なことを書いてしまいましたが、逆にどういう人に適しているかというと、数学に慣れている人が(例があんまなくても苦しくない人が)ガロア理論を勉強するとか、圏論的な定式化をしりたい人が読むにはいいと思います。ガロア理論を例に上げすぎてしまいましたが、この本では、最後の方のリーマン面楕円曲線あたりを目的に進んでいきます。また、斎藤先生自身が微分積分線形代数・集合と位相の本を書かれていますので、そういった本を読んでから読むとつながりが良いのかもしれません。

第1章の内容

本全体の話が長くなりましたが、第1章の内容の話を書きます。

 

1.3 節までの内容は、圏と関手と自然変換の定義です。圏の定義にも色々な書き方がありますが、この本では集合 $ C,M $ と写像 $s:M \to C$, $t:M \to C$, $ c:M \times_{s, C, t} M \to M $, $ e:C \to  M $ の組 $(C, M, s, t, c, e)$ であり、適切な条件(可換図式)を満たすものと定義します。単に $ C $と書くことが多いです。その可換図式を書くのは厳しいので省略しますが、それを何も見ないで描くのを復習がてらにやろうと思っています(冷静に考えたら、射の合成と$s,t,e$がどう関係するのかを列挙するだけで難しくないですね)。この定義自体は初見ではわかりにくいですが、$ C $ が対象の集まりであり、$ M $が射の集まりであり、$ s,t $ が射の source ,target を表すことと, $ c $ が射の合成, $e$が恒等射を定めるというような, よくある圏の定義に合わせた言い換えが直後にあります。$ M \times_{s, C, t} M $ が意味としては合成可能な射の組全体ですが、この記号は集合のファイバー積を表し、このために1.1で集合のファイバー積の定義をしています。

関手や自然変換も、写像として定義し、満たすべき可換図式を描くという方法で定義していますが、そこも思い出して整理することに挑戦したいです。

 

$ A $ から $ B $ の射全体の集合を書くときに $ {\rm Mor}_C(A,B) $ と書くときと、$ {\rm Hom}_C(A,B) $ と書くことがあり、特に書き分けるルールはないように思ったので、表記がブレているように思いました。個人的には、抽象的に圏を考えるときは $ {\rm Mor} $で、具体的な圏(実線形空間のなす圏など)を考えるときは $ {\rm Hom} $ がしっくりきます。

他にも軽微な誤植はありました。致命的な証明の間違いなどはないと思いますが、気がついてないだけかもしれません。

 

1.4 で圏の同値を定義します。関手 $ F : C \to C' $ が圏の同値であるか判定する必要十分条件が、「本質的全射かつ忠実充満」であることを確認します。この定理が、はじめて出てくる定理らしい定理かなと思います。そして、証明をきちんと書こうとすると意外と面倒です。ここの証明を整理しながら思い出すのも挑戦したいです。面倒な理由の1つは、準逆関手が一意に定まるわけではないことが理由かと思います。

 

1.5で表現可能関手、米田の補題を扱います。実は $ {\rm Mor} $ 自体が関手 $ C^{op} \times C \to Set $を定めているということがあって、一方を固定すると、$ h_A : C^{op} \to Set $, $ h_A(X) = {\rm Mor}(X,A) $という関手になります。このような関手と同型な(反変)関手を表現可能といいます。逆の方を固定すると $ h^A $ ですね。米田の補題は, $h_A$から他の一般の関手$F$について, その間の自然変換はどのようなものであるのかを教えてくれます。その系として,  $ h_A $ と $ h_B $ が同型であれば, $ A $ と $ B $ が同型であることが得られます。これを利用することで、「〇〇を表現する対象」という言い方で、直積の対象を定義するなどということができます。

 

1.6で随伴関手を定義します。$ C^{op} \times C' \to Set$ の関手 $ {\rm Mor}_{C'} (F(-), -)$ と $ {\rm Mor}_{C} (-, G(-))$ の間に同型があるとき、$ F : C \to C' $ を$ G : C' \to C$の左随伴関手、$ G $ を $ F $ の右随伴関手といいます。この節にはあまり例が出てこないのですが、2章に $ G $ が忘却関手の場合がよくでてきて、これが典型的な例かと思います。先にこの例を見たほうが理解しやすいと思います。本の流れとしては(論理的には)、関手 $ G $ が与えられとときに $ F $を構成する方法を命題1.6.5の(3) ⇒ (1) で与えていて、それを2章で利用するという流れになっています。

 

1.7 で逆極限を定義します。極限の存在を保証するような定理など、あまり深い定理はないと思いました。話をほとんど有向集合に限定しているので、近傍系を念頭においていて、あとの章でいうと、層のあたりで生きてくるのかと思います。逆極限だけでなく順極限もあり、それらが随伴関手で保たれるなど、そういう話は読んだことはありましたが忘れてしまっているので、この本とは別にまた勉強したいです。

 

メモ程度に書こうと思ったら意外と長くなりましたが、一方で、なんか説明が雑だなと思うので、理解が深まったらまたアップデートする記事を書くかもしれません。頑張って2章以降も読み進めようと思います。

 

最終更新:2020/09/28