応用情報技術者試験2020年秋

昨日受けてきました。何も参考にならない受験体験記。

 

1年前に基本情報を受けたので、4月の応用情報を申し込んだが、コロナで中止になりました。基本情報はわりと余裕をもって合格していたので、あまり応用情報の対策をする気が起きず、ちょっと午後の過去問の演習が不足していたかなあという感じ。

とりあえず、下の本を買って読んでいました。 

同じような厚さで、同じように知識を一通り紹介している感じの本はいくつかあるが、何かしら買ったほうがよいと思う。毎年新しいバージョンが出ていて、古いのだったら古本で安くなるのだが、最新のを買わないとちょっと気持ちが悪い(試験用の本はこの一冊なので、ここはケチらないという判断)。基本情報で使った本がキタミ式という絵の多い本だったので、それよりかは内容がかっちりしていて、ちょうど良かった気がします。 演習問題がついているかどうかは、あまり重要でない気がします。キタミ式は、当時の知識が何もない自分にはあっていましたが、今読み返すと絵が多く、1ページあたりの内容が薄い気もしました。

午前試験

本を読んだら、応用情報ドットコムの問題道場で練習すれば午前の対策はできると思う。逆にいうと、これ以外にあまり対策方法はないかなあという感じがする。

実際の昨日の午前試験は、過去問で見た問題・自信があった問題に対して、全く知らない言葉も結構でてきて、2択に絞ってあたったり外れたり、自信があっても勘違いしていたりぐちゃぐちゃでした。全然気分はよくないですが、66/80あっていて、6割で合格なので、余裕はありそう。2択で迷ったら適当にさっさと1つをマークして、計算問題とか考えれば分かるタイプの問題の見直しに時間をかけて(このあたりは前回の反省から)、さっさと試験会場を抜けてお昼をとって午後に備えるという作戦でした。ちゃんと見直しをしていれば点数は少し上がった気もするけど、80問もあるので、2周の見直しはダルいし、集中力が持たないです。1~2点上げるのに、60分掛けるのは、ちょっと嫌です。

知らない言葉というのは、特にセキュリティー関連で多かった気がします。後半の法律関連でも、多かった気がします。そういうのは調べても上の本に載っていないので、恐らくこの本に限らず、本での勉強は限界があるかなあと思います。ただ、満点を目指すものではまったくないので、初見の言葉を見るとモヤッとはしますが、試験中は気にしないことです。真面目に対策をしようとすると、何をしたらいいのか分からないですけど、最近のニュースを調べたりとか、講座を受けたりとか、それで済むのかも謎ですけど、一気にコストが上がると思います。内容が時代に合わせてアップデートされる試験なので、過去問はたくさんあるのですが、なるべく新しい問題を中心にやると良いかなと思います。

午前試験この1題

たぶん良くある題材だと思うのだが、個人的には初見で、考えたら分かりそうだが、説明が少なくなんだが状況が掴みにくいという問題。で、仕方がないので考えようとしたが、選択肢が、なにかしらの発注量・費用・費用・費用で、どう考えても発注量が答えなので、アと分かる。ズルいと言えばズルいけど、この種のテストだと、こういう曲がったやり方が案外点数に影響すると思う。他にも細かいところで、こういう頭の使い方はしている気がする。

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さて、上のその論理で個人的には満足してしてしまったが、今見返してみると、①~④が、ア~エのどれかに対応しているのですね。そのことに気が付きませんでした。他の問題で確かに、暗黙のうちにこういう対応がついている問題がありました。こういう構造に気がつくか否かも影響がありそうですね。(でも、はっきり問題文で対応がついていることを明示すればいいと思うなあ。)ということで、グラフの横軸の発注量とはQのことで、イが④でそれを最小化する値がアだということですね。やっと全貌がつかめました。変数と定数が混ざっているので、ダルい問題でした。

理解できたところで振り返ると、全然いい問題だと思いません。こういう問題の対策を真面目に考えても仕方がないので、真面目に対策をする・勉強をする価値があるところに力を掛けるべきですね。

午後試験

午後は反省点が多いです。午前とは違い大問からなる試験なので、1問の演習にかかる時間が長く疲れます。ということで、対策を怠っていました。その場で考えて答える問題が中心なので、なんとかはなるのですが、さすがにSQLの構文くらいもう少し理解しておくべきだったかなあという感じです。SQLは毎年出ますし、他にもSQLほどでなくても似たような設定の問題がでるので、形式に慣れるための演習はしておいた方がいいです。また、選択式の大問の中から何を選択して答えるのか(計算とかコード中心の問題か国語っぽい問題か)の作戦を事前に立てておいたほうがいいかなと思います。私は計算とかコードを書くタイプを中心ににしつつ、国語っぽい問題で簡単そうなのをつまむ感じでした。1題必須で、残り10題から4題を選ぶ形式なので、目移りはするのですが、さっさと答える問題を決めて、途中で分からないから問題を変えるとかはあまりしない方が良い気がします。というのは、知識の問題より、考えれば(時間をおいたりすれば)分かる問題が多いからです。1問1問の問題文が長く、5問分の状況を把握するのでも精一杯なので、さらに選ぶのを迷っていると頭がパンクして集中力が持たない気がします。

午後の試験で早く抜けていた人もいたのですが、個人的には時間いっぱいどうしても使いたい試験です。大問1問を丸々勘違いしていると一気に合格が遠のくので、どんなに余裕があっても見直しをしたくなる試験だと思います。ということで、自信をもって答えられていて早く抜けている人はすごいと思いますが、その域に達するまで試験勉強を頑張るよりかは、当日の勝負に時間をかけた方が効率的な気がします。

午後の試験対策は公式の過去問と解答のみでした。解答のみで解説はないのですが、そこで困ることはないです。もし午後試験で落ちていたら、その点数にもよるけど、同じような対策をして、もう少し過去問を解いて慣れておくという感じになるのかなあと思います。解答速報などを見ていたら、大きく落としている大問はなかったので、大丈夫かなとは思いますが。

基本情報も応用情報も合格率は2割くらいなので、需要があるから受けている人が多い反面で意外と対策がしにくい試験なのかなあという気がします。

基本情報と応用情報の両方を受けました。1年間あいたこともあるのですが、両者の試験の難易度の違いがよく分からないです。ちょっと出題範囲が違うのだと思いますし、IPAのHPに書いてあるはずですけど、実感としてはあまりないです。

 

 

 

 

「数学原論 第2章 環と加群」 読書メモ 後編

書いてあることについて、より広いクラスの環ではどうなるのかを調べた結果を、書き起こしておきます。

 単因子論

2.7節の内容です。目標としている定理は次のようなものです。

 

$ A $ を単項イデアル整域、$ M $ を有限生成 $ A $ 加群とする。このとき、$ A $ のイデアル の増大列 $ I_1 \subset I_2 \subset \cdots \subset I_n \subsetneq A $ があり, $ M $ は  $A/I_1 \oplus \cdots \oplus A/I_n$ と同型である。 

本では、これを $ A $をユークリッド整域の場合についてのみ示しており、一般の単項イデアル整域の場合は、選択公理が必要と書かれていたのでどこで必要になるのか検討した。確かに必要だなと思ったが、よく考え直した結果必要ではないように思えてきて、よくわからなくなってしまった。

定理を証明する上で、次の主張を示すことが本質になる。

$ A $ を単項イデアル整域、$ M $ を有限階数の自由 $ A $ 加群、$ N $を部分 $ A $ 加群とする。このとき、$ N  $も有限階数の自由 $ A $ 加群であり、特に $ M $ の基底 $ x_1 , \ldots, x_n $ と、$ d_1, \ldots, d_n \in A $ で、$ N = Ad_1x_1 + \cdots + Ad_nx_n $ と $(d_1) \subset \cdots \subset (d_n) $をみたすものがある。

先に、 $ N $が自由生成加群で階数が $ M $ の階数のもの以下になるところまで示しておくのですが、そこでは、選択公理を使わずに示せるようにみえました(証明に違いはない)。その次のステップとして、$ d_n $ にあたる $ A $の元をみつけて、そこから帰納法をまわすのですが(全然説明になっていない気がするけど)、ともかく

\[
M^{\vee} \cdot N  = \{ f(x) \mid f \in M^{\vee}, x \in N \} \subset A
\]

の中から $d_n$ にあたるものを見つけるということをします。ユークリッド整域の場合は、($0$を除いて)ユークリッド関数が最小になる元をとればいいです。一般の単項イデアル整域の場合は、整除関係で極小になるものを選ぶという風にします。同伴なもの(互いに割り切る)のときに不正確なので、正確にいうと、この $A$ の部分集合に入っている $d \neq 0$ であって、他の元 $ x $ であって、$x \mid d, d \nmid x$を満たすものはないというのが $d$ の条件です。

整理すると、$M^{\vee} \cdot N$の元 $x$ で生成されるイデアル $(x)$ 全体の中で極大なものを選ぶことになります。そのときに、Zorn 補題を使っているのかななどと思ったのですが、使わなくて済みますね。($f$を固定するごとに$f(N)$はイデアルになっていることが分かるから、そのイデアルの族の中で極大なものを選ぶといった方が少し簡単だったかも。)これ以降の証明は、ユークリッド整域であってもなくてもあまり変わらないので、どこで選択公理を使っているのかよくわからなくなってしまいました。

一般の主イデアル整域上の単因子論の証明は、松坂和夫の代数入門を見ました。代数系について初めて勉強するにはとてもよい本だと思います。

素元と既約元

本でいうと、命題2.6.5 について。この章では、単項イデアル整域に限定しているので、その場合、素元と既約元の違いがありません。なので、その同値な定義を満たすものを、素元と呼んでいて、既約元という言葉が登場しません。

ということで、単項イデアル整域に限らない一般の環で何が成り立つのかを整理しておきます。

まず、$ p $ が素元であるとは、$ p $ が $ 0 $ でも単元でもなく、$ p \mid ab$ のとき $p \mid a$ または $ p \mid b$ であることをいう。これは、$ (p) $ が $ (0) $ ではない素イデアルであることと同値である。

$ p $ が既約元であるとは、$ p $ が$0$でも単元でもなく、$ p  = ab $ のとき、$a$ または  $b$ が単元であることをいう。これは、$ (p) $ が $ (1) $ と $ (0) $ を除く単項イデアルの中で極大であることと同値である。

整域においては、素元は既約元になる。そして、単項イデアル整域であれば、既約元であることから素元であることがしたがうので、両者の概念を区別する必要がなくなるのだった(素元の方が強い性質を持つので、素元という言葉の方を使う)。

既約元の積への分解を考えると、できたとしても一意とは限らない。一意性がしたがうようにしたいと思うと、自然に素元の概念に行き着くようになっている。

整域においてしか成り立たたないこと、単項イデアル整域でしか成り立たないことなど、注意しながら読むとちょっと複雑であった。

「数学原論 第2章 環と加群」 読書メモ 前編

 まだ、読み途中ですが。

第2章の目標

この章には最後に目標があって、「素数 $p$ が $a^2+b^2$ の形で表されることと、$p=2$ または $p$ が $4$ で割って$1$余ることが同値である」(ピタゴラス素数の定理ということにする)という定理を示すことです。この目標に向かってすすんでいきますが、直接の証明に当たる部分は短くて、2.8節の後半で完結しています。ページにすると、1ページくらいです。それ以前は、すべて環と加群の一般論になっているといえます。この定理を示すだけであれば、もっと2章全体のページ数は減らせるかもしれませんが、環論の一般論を知っているだけで、だいぶ見通しがよくなり、この定理以外にも応用がきくようになっています。

本の冒頭では、2章の内容は、リーマン面楕円曲線の章で使われるという説明になっていますが、4章のホモロジーではいらないのだろうかというのが気になります。

「環と加群」の特殊な例としての線形代数

「環と加群」は、特殊な場合については多くの大学生が勉強していて、それは線形代数です。線形代数は体上の加群の理論ということができます。

そもそも環とは何かというと、足し算・掛け算が定まっている集合のことで、足し算・掛け算をつなぐルールとして分配法則を課しています(あと、ここでは1があって可換)。体はその上で、割り算もできるようにしています。線形代数の授業では、体として実数と複素数を基本的に扱いますが、一般の体でも多くの部分がそのまま成り立ちます。と思ったのですが、直交行列とかユニタリ行列とか対称行列など、単に線形空間(体上の加群)を考えているのではなく、内積が備わっている内積空間でないとできない話も多くあります。他に、標数が0でないときは、なにかトラップがあった気がします(が忘れました)。

線形代数が、一般の環上の加群の理論と比べてはるかに簡単になっている理由は、1つには、同型の差を除いて線形空間がすべて分かっているからであって、次元で決定できるわけです。線形空間があると思ったら、それが微分方程式の解の空間であれなんであれ、次元を調べて、基底をみつければ、その線形結合ですべての元を列挙できますし、その空間を分かったいってよいでしょう。線形空間の間の線形写像も、行列で表せるので、分かりやすいです。一般の環の加群では、基底がとれることもありますが、一般にはとれず、環 $A$ 上の加群として、有限生成なものに限っても、どういうものがあるのか全体像がつかめないということが多いはずです。

重要な環のクラス

とはいえ、一般の環で理論を作るのは難しいので、ある程度、環に条件をつけて理論を構築することになります。体も環のクラスの1つですが、体に絞ると線形代数から進歩がなくなってしまいます。ほどよいクラスを定めるときに、イデアルに着目します。イデアルは $A$ に含まれる $A$加群であったことを考えると、自然な方法に思えます(一般の加群の形もある程度きまりそう)。

体の場合は、環 $A$ であり、イデアルが $A$ と $0$ のちょうど $2$ つであるものと定義できます。この章では、単項イデアル整域がでてきますが、これはすべてのイデアルが $1$ つの元で生成される整域という条件です。整域は $ab = 0$ から $a = 0$ or $b = 0$ がしたがうという条件で、体のように「乗法の逆元が $0$ 以外のすべての元についてある」という意味での割り算はできないが、弱い意味での割り算はできるという条件といえるかと思います。それから、ユークリッド整域もでてきますが、これは余りのある割り算ができるという感じです。ユークリッド整域であれば単項イデアル整域なのですが、ユークリッド整域であることは、あまりの大きさの尺度になるユークリッド関数を具体的に作ることで確認できるので、具体的な環に対して単項イデアル整域であることを確認するための方法として有効です。

この本には出てこないみたいですが、より広いクラスとしてネーター環があります。

単項イデアル整域、ユークリッド整域と選択公理

少し気になったのは、この章では、単項イデアル整域で成り立つことをあえてユークリッド整域で示していることがあるということです。その理由としては、選択公理の使用を避けているとのことです。ただ、単因子論のところで、選択公理を使うとしても、一般の単項イデアル整域の場合の証明がわからなかったので、別の本で調べるか、頑張って埋めるかします(勉強したことあるはずだけど)。

 

書いてたら意外と長くなったのでここまで。

 

 

コーシー分布の話

 コーシー分布の確率密度関数について。

コーシー分布の確率密度関数

コーシー分布を定義する方法の1つは、確率密度関数

\[ f(x) = \frac{1}{\pi} \frac{1}{1+x^2} \qquad (-\infty < x < \infty)\]

であると定義する方法である。今回は考えないが、

\[ f(x) = \frac{a}{\pi} \frac{1}{1+(ax+b)^2} \qquad (-\infty < x < \infty)\]

のようなバリエーションもコーシー分布というかもしれない。

 確率密度関数であるためには、

\[ \int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, dx = 1 \]

を満たす必要があり、今回でいうと、

\[  \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{1+x^2} \, dx = \pi \]

になる。これは、積分と $ \tan^{-1} $ の性質

\[  \int_{0}^{x} \frac{1}{1+t^2} \, dt = \tan^{-1} x, \qquad \lim_{x \to \infty}\tan^{-1} x = \frac{\pi}{2} \qquad \lim_{x \to -\infty}\tan^{-1} x = - \frac{\pi}{2} \]

を用いれば分かる。高校数学ではこの積分の公式を教えることはなく、頑なに $ t = \tan x $ などと置換させて解かせるが、教えたほうがはやいと思われる。

コーシー分布と正規分布の関係

$ X $, $ Y $ が標準正規分布にしたがう(独立な)確率変数であるとき、商で定義される確率変数 $ Z = Y/X $ のしたがう分布がコーシー分布であるという定義もできる。この定義にしたがって $ Z $ の確率密度関数を計算し、上で定義したものと一致することを確認しよう。

 

商の分布の計算の話をするのは面倒だが手短に行う。結論を言えば、$ Z = Y/X $ の密度関数は, $ X $の密度関数 $ f $ と $ Y $ の密度関数 $ g $ を用いて, 

\[ h(z) = \int^{\infty}_{-\infty} f(x) g(zx) | x | \, dx \]

 となる。これは, $(x, y) \mapsto (z, x)$ の変換を行い, $ (z,x) $の同時密度関数を得たあとに $ x $ について積分しているのであり、$ | x | $ は$(x, y) \mapsto (y/x, x)$のヤコビアンの絶対値の逆数である(わざわざ逆数を取らなくても、$(z,x) \mapsto (x,y)$のヤコビアンでよかった)。和の分布であれば、

\[ h(z) = \int^{\infty}_{-\infty} f(x) g(z-x)  \, dx \]

のように、ヤコビアン(の絶対値)が1になるので意識しなくて済むが、商やもっと複雑な変換をする場合は、この理屈が分かっていないと計算ができないので注意。

 

今の場合は、

\[ f(x) = g(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}} e^{-\frac{x^2}{2}} \]

であるから、これを当てはめて、

\begin{align}
h(z)
&=\frac{1}{2\pi} \int^{\infty}_{-\infty} e^{-\frac{(1+z^2)x^2}{2}} | x |  \, dx
= \frac{1}{\pi} \int^{\infty}_{0} e^{-\frac{(1+z^2)x^2}{2}} x  \, dx\\\
&= \bigg[ -\frac{1}{\pi (1+z^2)} e^{-\frac{(1+z^2)x^2}{2}} \bigg]^{\infty}_{0}
= \frac{1}{\pi (1+z^2)}
\end{align}

となって、上の確率密度関数と一致する。

図形的な意味を使った導出

このような積分を使った計算を使わなくても、図形的に確率密度関数を導出することも可能である。

$ Z = Y/X $ の分布を考えているわけだが、これは $ (X,Y) $と原点を通る直線の傾きを表す。ここで、$ (X,Y) $は原点を中心にした回転で不変な分布であるから、$ (X,Y) $と原点を通る直線の偏角は$-\frac{\pi}{2}$から$\frac{\pi}{2}$で一様に分布する。このことから$Z$の累積分布関数に$\frac{1}{\pi} (\tan^{-1}z + \frac{\pi}{2} )$であることが分かり、これを微分して密度関数が得られる。 

コーシー分布には期待値が定義できない

コーシー分布は0を中心とした山の形をしているという点では、標準正規分布と同じである。しかし、期待値は$0$でなく、そもそも期待値が定義できない。(分散も定義できない。)定義できるためには、$| x | $を密度関数と掛けたものの積分が有限でないといけないが、コーシー分布の場合は$\infty$である。したがって、コーシー分布にしたがって $n$ 個の値をとって平均をとったときに$n$を大きくしても$0$には近づくとはいえない。

コーシー分布も正規分布も $ \lim_{x \to \pm\infty} f(x) = 0 $ ではあるが、収束の速さには差があり、コーシー分布は正規分布に比べて遅く、コーシー分布は裾の広い分布といえる。別の観点では、$f(x) / f(x+1)$はコーシー分布では1に収束し、正規分布では$0$に収束するという違いがある。2019年11月の統計検定1級の統計数理の試験に、それに由来する現象を題材とする問題があるので、それについても書きたかったが、今回はここまで。

 

 

 

「数学原論 第1章 圏と関手」 読書メモ

斎藤毅先生の「数学原論」を数学の学び直しとして読んでいます。第1章を読んだので、復習のために書いてあった内容を思い出しつつ、メモを書きます。

圏論と本全体のこと

第1章のタイトルは圏と関手ですが、この本全体を通して、圏論的視点で現代数学を見るというのが目的となっているので、そのために圏論の言葉・基本的な概念と使用する定理をまとめているのがこの章という位置づけになると思います。

 

本の冒頭で、微分積分線形代数集合論をやっていればこの本は読めます、と書いてありますが、正直難しいかなと思います。第1章については、具体的な圏と関手の例を知っているから読めている気がします。圏の入門としてはもっと例が豊富で読みやすいものもあります。一方で、例えば第3章でガロア理論を扱っていますが、ガロア理論を勉強するときにも、圏論を知っていることが必須ではないので、この本で勉強しようとすると、第1章で詰まってしまうかもしれませんし、そうするとガロア理論だけに特化した、もっと説明が丁寧な本を選んだほうが、「ガロア理論を勉強をしたい!」と思っている人のうちの大半のニーズにはあっているでしょう。

 

否定的なことを書いてしまいましたが、逆にどういう人に適しているかというと、数学に慣れている人が(例があんまなくても苦しくない人が)ガロア理論を勉強するとか、圏論的な定式化をしりたい人が読むにはいいと思います。ガロア理論を例に上げすぎてしまいましたが、この本では、最後の方のリーマン面楕円曲線あたりを目的に進んでいきます。また、斎藤先生自身が微分積分線形代数・集合と位相の本を書かれていますので、そういった本を読んでから読むとつながりが良いのかもしれません。

第1章の内容

本全体の話が長くなりましたが、第1章の内容の話を書きます。

 

1.3 節までの内容は、圏と関手と自然変換の定義です。圏の定義にも色々な書き方がありますが、この本では集合 $ C,M $ と写像 $s:M \to C$, $t:M \to C$, $ c:M \times_{s, C, t} M \to M $, $ e:C \to  M $ の組 $(C, M, s, t, c, e)$ であり、適切な条件(可換図式)を満たすものと定義します。単に $ C $と書くことが多いです。その可換図式を書くのは厳しいので省略しますが、それを何も見ないで描くのを復習がてらにやろうと思っています(冷静に考えたら、射の合成と$s,t,e$がどう関係するのかを列挙するだけで難しくないですね)。この定義自体は初見ではわかりにくいですが、$ C $ が対象の集まりであり、$ M $が射の集まりであり、$ s,t $ が射の source ,target を表すことと, $ c $ が射の合成, $e$が恒等射を定めるというような, よくある圏の定義に合わせた言い換えが直後にあります。$ M \times_{s, C, t} M $ が意味としては合成可能な射の組全体ですが、この記号は集合のファイバー積を表し、このために1.1で集合のファイバー積の定義をしています。

関手や自然変換も、写像として定義し、満たすべき可換図式を描くという方法で定義していますが、そこも思い出して整理することに挑戦したいです。

 

$ A $ から $ B $ の射全体の集合を書くときに $ {\rm Mor}_C(A,B) $ と書くときと、$ {\rm Hom}_C(A,B) $ と書くことがあり、特に書き分けるルールはないように思ったので、表記がブレているように思いました。個人的には、抽象的に圏を考えるときは $ {\rm Mor} $で、具体的な圏(実線形空間のなす圏など)を考えるときは $ {\rm Hom} $ がしっくりきます。

他にも軽微な誤植はありました。致命的な証明の間違いなどはないと思いますが、気がついてないだけかもしれません。

 

1.4 で圏の同値を定義します。関手 $ F : C \to C' $ が圏の同値であるか判定する必要十分条件が、「本質的全射かつ忠実充満」であることを確認します。この定理が、はじめて出てくる定理らしい定理かなと思います。そして、証明をきちんと書こうとすると意外と面倒です。ここの証明を整理しながら思い出すのも挑戦したいです。面倒な理由の1つは、準逆関手が一意に定まるわけではないことが理由かと思います。

 

1.5で表現可能関手、米田の補題を扱います。実は $ {\rm Mor} $ 自体が関手 $ C^{op} \times C \to Set $を定めているということがあって、一方を固定すると、$ h_A : C^{op} \to Set $, $ h_A(X) = {\rm Mor}(X,A) $という関手になります。このような関手と同型な(反変)関手を表現可能といいます。逆の方を固定すると $ h^A $ ですね。米田の補題は, $h_A$から他の一般の関手$F$について, その間の自然変換はどのようなものであるのかを教えてくれます。その系として,  $ h_A $ と $ h_B $ が同型であれば, $ A $ と $ B $ が同型であることが得られます。これを利用することで、「〇〇を表現する対象」という言い方で、直積の対象を定義するなどということができます。

 

1.6で随伴関手を定義します。$ C^{op} \times C' \to Set$ の関手 $ {\rm Mor}_{C'} (F(-), -)$ と $ {\rm Mor}_{C} (-, G(-))$ の間に同型があるとき、$ F : C \to C' $ を$ G : C' \to C$の左随伴関手、$ G $ を $ F $ の右随伴関手といいます。この節にはあまり例が出てこないのですが、2章に $ G $ が忘却関手の場合がよくでてきて、これが典型的な例かと思います。先にこの例を見たほうが理解しやすいと思います。本の流れとしては(論理的には)、関手 $ G $ が与えられとときに $ F $を構成する方法を命題1.6.5の(3) ⇒ (1) で与えていて、それを2章で利用するという流れになっています。

 

1.7 で逆極限を定義します。極限の存在を保証するような定理など、あまり深い定理はないと思いました。話をほとんど有向集合に限定しているので、近傍系を念頭においていて、あとの章でいうと、層のあたりで生きてくるのかと思います。逆極限だけでなく順極限もあり、それらが随伴関手で保たれるなど、そういう話は読んだことはありましたが忘れてしまっているので、この本とは別にまた勉強したいです。

 

メモ程度に書こうと思ったら意外と長くなりましたが、一方で、なんか説明が雑だなと思うので、理解が深まったらまたアップデートする記事を書くかもしれません。頑張って2章以降も読み進めようと思います。

 

最終更新:2020/09/28